マンションの法律問題―管理費の滞納
| 2012.02.28 火曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年12月号Vol.71」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №6」を加筆修正して、再掲したものです。
気に入ったマンションを購入して、生活を始めてみると、多数の人が住むマンションでは予想外の法律問題が生じます。その代表例が管理費の滞納問題です。他の区分所有者による滞納が長期化、高額化すると、マンションの共同生活の維持すら困難になります。
不払い管理費の回収には、訴訟や督促手続をする方法もありますが、管理費については法律で特別に先取特権が認められており、わざわざ訴訟をしないでも管理費を回収できる場合があります(建物の区分所有等に関する法律7条1項)。
それでも、支払いをせず、居座る区分所有者がいます。悪質な滞納は「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(同法6条1項)であ り、そのため「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を 図ることが困難であるとき」(同法59条1項)にあたるとして、管理組合が競売請求した訴訟がありました。
裁判所は、この競売請求を認める判決を出しましたが、この判決を見た、被告(悪質な長期滞納者)は競売を逃れるために区分所有権の共有持分を第三者に売却しました。
それでは、この判決によりこの第三者に対しても競売請求はできるでしょうか。最高裁判所は競売請求ができないと判断しました(最高裁平成23年10月11日第3小法廷決定、最高裁HP)。訴訟の負担とマンション管理の実態から考えさせられる判例です。
近森土雄
法律の誤解?個人情報の開示請求
| 2012.02.26 日曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年11月号Vol.70」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №5」を加筆修正して、再掲したものです。
平成15年に、個人情報の保護に関する法律ができてから、個人情報という言葉は日常用語としてすっかり定着した感があります。しかし、法律家からすると誤解されて使われることが多い言葉です。
例えば、同法25条は、「個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法 により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。」としています。この規定を読むと、提供した個人情報の開示請求権が個人に認められてい ると誤解(?)する人は多いと思います。
しかし、否定した裁判があります(東京地裁平成19年6月27日判決)。この裁判は、受診した眼科医に対して患者が診療録(カルテ)の開示を求めたもので すが、裁判所は同法による開示義務は行政に対する公法上の義務であるが、私法上の義務ではないと判断して、裁判による開示請求を認めませんでした。
この裁判はそのまま確定したために、高等裁判所、最高裁判所の判断は出ていません。しかし、同法は個人の開示請求権を認めているとする立場からの有力な批判があります。
法律があっても、その解釈が確定していない身近な例を挙げてみました。なお、行政機関や独立行政法人(国立大学など)に対しては、別の法律があります(行 政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律)。そこでは、保有する個人情報の開示を請求する権利 が個人にあることが、【開示請求権】という標題の条文で明確に認められています。
同条文では、「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。」(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律12条1項)と明示しています。
近森土雄
維新版・船中八策の真の危うさ
| 2012.02.20 月曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |
まず、以下の意見は大和個人の意見であって、当事務所及び当事務所の他の弁護士の意見ではないことを予めお断りします。
橋下氏が率いる大阪維新の会の次期衆院選公約として骨子が発表された「維新版・船中八策」ですが、その過激な内容が話題となっています。首相公選制、参 議院廃止、国民総背番号制など、一昔前の参院選比例代表制で泡沫政党が主張していた政策とほぼ同じです。言い出したのが大阪維新の会でなければマスコミも 放置していたのではないでしょうか。
この維新版・船中八策に対するマスコミや政治家、有識者のコメントを見ますと、橋下氏に対する個人攻撃から実現可能性に対する論評まで、過激さに比例するかのように百論続出です。
しかし、私はこの有識者のコメントにこそ、維新版・船中八策の真の危うさが潜んでいるのではないかと思うのです。
これらのコメントの論調を見ますと、「首相公選制や参議院廃止は憲法改正をしなければできないんだから、実現は困難だ」という点では一致しているようで す。そのため、「また橋下がマスコミに取り上げてもらおうと思って、現実性のない花火を打ち上げている」と思っている節がありありと見えます。
その前提には「憲法改正なんて不可能だ」という戦後60年以上積み上げられた経験則がありますが、私にはどうもその経験則に捕らわれすぎているように思えます。
先日、大阪の選挙区で次期衆院選で維新の会と公明党が選挙協力する旨の報道がなされました。
公明党に限らずどの政党でも、可能ならば首相を輩出し内閣を組織したいと思っているはずです。しかし、今の党勢や選挙制度で大政党以外の政党から首相を出すのはほぼ不可能といってよいのではないでしょうか?
でも首相公選制が導入されるとぐっと公明党などの政党から首相を出せる可能性が高まります。他の党より人気のある候補さえ出せれば首相選挙に勝てるので す。熱狂的な人気を誇る橋下氏と組めればより可能性は高まるでしょう。橋下氏が深謀遠慮によって自身が首相に立候補しない可能性も十分にありますから。
そうすると公明党を含め、大阪維新の会に群がる政党が首相公選制に賛成し、賛成勢力が両院で3分の2以上を取る可能性がないとは言えません。
絵空事かもしれません。しかし、憲法改正なんて無理だという先入観で楽観視していると、気づいた時には手遅れとなってしまっている。
それが今回の維新版・船中八策に潜む真の危うさではないかと私は思います。
大和克裕
法律相談のむずかしさ
| 2012.02.2 木曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年10月号Vol.69」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №4」を加筆修正して、再掲したものです。
弁護士が相談者から事実経過を聞いて、相談者の権利と義務について意見を述べるのが法律相談ですが、相談者にとって、適切に事実経過を整理し相談すること は意外と難しい。というのは、法律判断をするのに必要な事実が何かかが分らないのが一般的で、そのため伝えるべき事実も分らないからです。
テレビで、数人の弁護士が法律相談に回答をするが、弁護士によって意見が違ったのを、回答の正否ではなく、回答者の個性や人生観の問題として司会者が巧み に整理進行するのが人気の番組があります。これも、一方的な質問で、提供される事実関係が不十分なことが、結論が分れる主な原因です。
主な原因と言いましたが、相談者から事実関係が適切に伝えられても、その事実を証明できる証拠がない場合にも弁護士の意見が分れます。相談者本人も当事者 として証拠になりますが、裁判所はなかなか信用してくれません。できれば第三者の証人(目撃者など)、書類などの証拠がいります。証拠がそろえば、判決の 見込みについて弁護士の意見はより一致するはずです。
それでも、意見が違う場合があります。それは、適用する法律の理解に食い違いがある場合で、条文や判例の解釈、裁判実務の理解によって、裁判の見込みに差があります。
ご相談者ご本人があらかじめネットなどで法律を調べて、相談されることが最近は多くなりましたが、法律を誤解されていることが相談で分ることがめずらしくありません。
近森土雄