法に従い、法に守られる経営を
| 2012.09.21 金曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2012年6月号Vol.77」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №12」を加筆修正して、再掲したものです。
企業経営にコンプライアンス(法律順守)が求められてから永く
なりますが、最近でも企業が事故や紛争に巻き込まれ、不祥事に至
る事態はあとを絶ちません。
事前に法律を確認し、真面目に経営努力されても、予想外のトラ
ブルが発生します。適切な対応を誤り、早期の解決ができないで、
裁判になることもあります。裁判では必ずしも事実が正しく認定さ
れるとは限らず、納得のいかない結論が裁判所から出されることも
あります。
ではどうしたらいいか。できるだけ早く弁護士に相談するよう日
頃から心がけましょう。事業計画を立てたり、新たな事業に取り組
むだけでなく、クレーム処理などを日常的に相談されることです。
弁護士にまで相談する案件か迷われるでしょうが、法律が頻繁に改
正されたり、新たな法律が制定されたり、法律相互の関係が複雑化
した現代では、些細な事柄と判断したことが思いがけず重大な事態
を引き起こすことがあります。
弁護士の意見で、ひとつの法律にとらわれない、より基本的な観
点から法律問題に気づかれることがあります。予め法的問題の所在
を知りながら事業に取り組むことができれば、紛争を予防し、損害
を予測できるなど、法的リスクの管理がしやすくなります。弁護士
の意見は経営者とは見方が異なるために、敬遠したくなりますが、
手間を惜しまず、議論を恐れず、相談されることで、法に守られる
より息の長い経営が可能になります。
近森土雄
ヤミ金融に気をつけて
| 2012.06.20 水曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2012年5月号Vol.76」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №11」を加筆修正して、再掲したものです。
ヤミ金融という言葉はニュースによく出てきますが、ヤミ金業者
は法定の登録(知事か総理大臣に)をせず貸金業を営んでいます。
業者によりますが、金利は1週間で元金と同額というひどい例もあ
り出資法などに違反する高利の犯罪行為です。2万円から3万円ほ
どの少額でも需要があります。契約書はなく、電話で申し込むと銀
行口座にお金が振り込まれてきます。
高金利と分っていても、すぐに返済できる当座のお金と思って申
し込むようですが、返済期限の延長が認められ、延長の度に利息を
払わされるので、返済額は膨れ上がります。指定された銀行口座に
振り込み入金して返済しますが、借名口座であるため振込人と名義
人が違います。すべてが口約束です。長引くと当然、返済ができな
くなり、電話での取り立てが始まります。「借りた金を返せ」、「約束
を守れ」、「窃盗」などと言われ、「ビラを貼って家族や近所に知ら
せてやる」などと言われると、家族など身近な人に相談ができず、
身動きできなくなるまで支払い続けることになります。
言えない使途のお金を借りることもあり相談が遅れるようです。
約束を守るという素朴な倫理観からつい元金だけでも返そうと思っ
てしまいますが、元金額は不明になります。最高裁判所は公序良俗
に違反する無効の契約で、ヤミ金業者に金銭を返済する義務はまっ
たくないと明言しています。
法律上の結論は明瞭ですが、ヤミ金は人の心の隙間をついた犯罪
です。くれぐれもお気をつけください。
近森土雄
消えた年金記録と第三者委員会の役割
| 2012.03.12 月曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2012年2月号Vol.73」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №8」を加筆修正して、再掲したものです。
旧正月を迎え、明るいコラムにしたいので、新しい法制度の成功例をご紹介します。
その一つとして、年金記録確認第三者委員会の設置があります。数年前に「消えた年金記録」問題が明るみになり、2007年に総務省に設置されました。記 録を管理する厚労省は信用できないとされ、外部に審査機関関を設けました。弁護士や社会保険労務士などの専門家が委員となり、独立・公平な審理を目指しま した。この間に20万件を超える申立てがあり、結論が出されました。
消えた年金問題は、厚生年金加入者が社会保険料相当分を給与から源泉徴収されていながら、雇用主が徴収したお金を社会保険庁に納付していなかったことな どから生じています。加入者である民間人は国のすることなので、当然に納付した社会保険料を管理してくれていると思ったら、大違い。納付も、加入時期の確 認も企業任せで、実態と食い違っていました。
この新制度によって、以前は救済されなかった障害年金受給者が受給できる可能性が生まれました。たとえば、退職後に事故に遭うなど身体の障害で働けなく なっても、加入期間など一定の要件を満たしていれば、障害年金がもらえます。ところが、たった1月分でも加入時期の記録に誤りがあると受給できません。そ のうえ、記録の誤りが発見されても、社会保険料の納付期限が時効(2年)になっていれば、雇用主は不払にした保険料の支払いができません。その結果、若く して不幸にも障害を負った加入者で要件を満たす保険料相当額を給与から天引きされていたケースでも、企業が納付していなかったために障害年金が受給できま せんでした。最近まで加入者に加入状況を知らされる機会が限られていたのに、
おかしい話です。
このような不合理な法律の存在は、憲法の平等原則違反として裁判で争うしかありませんでした。しかし、第三者委員会の提案で、第三者委員会のあっせんが あれば救済されるようになりました。厚生年金保険の保険納付及び保険料の納付の特例等に関する法律の制定です。必要な法律が整備されて、制度がより公平に 近づいた例です。
近森土雄
交通事故と損害賠償
| 2012.03.6 火曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2012年1月号Vol.72」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №7」を加筆修正して、再掲したものです。
交通事故は誰にでも起きる可能性があり、加害者と被害者で損害賠償の支払いを巡って紛争になることは珍しくありません。日本では、損害保険制度が整備されており、多くは保険会社による示談で終了します。
深刻な事案は弁護士が加害者あるいは被害者の代理人となって、交渉、訴訟、その他の手続きでより適切な解決をすることになります。
深刻化するのは、いろいろな要素がありますが、法的な問題で思い切った判断を求められる場合があります。今回は、少し難しいかもしれませんが、損害(逸失利益)をどうみるかが争点になった判例(最高裁平成5年3月23日大法廷判決)を紹介します。
退職年金を受給中の元公務員の被害者が不幸にして事故で亡くなり、遺族である妻が遺族年金を受け取ることになりました。被害者が受け取るべき将来の退職 年金相当分を受け取れなくなったので、被害者を相続した妻が将来の退職年金相当分を加害者(損害保険会社)に請求したという事案です。
原告の妻が遺族年金を受け取ることで、将来の年金相当分を二重取りすることになるのではないか、公平の見地から将来に受け取れる遺族年金相当分は損益相殺して損害から差し引くべきではないか、が問題になりました。
裁判所は、遺族年金は①妻の死亡、または、②妻の再婚により、いずれも支給が終了するので、被害者本人の死亡によって支給が終わる退職年金とは終了時期 が異なることを理由に、(確定していない)将来の遺族年金については損益相殺しないとしました。損害は被害者が将来受け取れるであろう退職年金であり、そ こから妻の(将来の)遺族年金分を差し引かないというのが結論です(前記、最高裁判決)。
将来の収入という不確定な事実について、第三者が評価するときに、何を損害とするのが公平といえるか、判断の難しい問題です。
近森 土雄
マンションの法律問題―管理費の滞納
| 2012.02.28 火曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年12月号Vol.71」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №6」を加筆修正して、再掲したものです。
気に入ったマンションを購入して、生活を始めてみると、多数の人が住むマンションでは予想外の法律問題が生じます。その代表例が管理費の滞納問題です。他の区分所有者による滞納が長期化、高額化すると、マンションの共同生活の維持すら困難になります。
不払い管理費の回収には、訴訟や督促手続をする方法もありますが、管理費については法律で特別に先取特権が認められており、わざわざ訴訟をしないでも管理費を回収できる場合があります(建物の区分所有等に関する法律7条1項)。
それでも、支払いをせず、居座る区分所有者がいます。悪質な滞納は「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(同法6条1項)であ り、そのため「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を 図ることが困難であるとき」(同法59条1項)にあたるとして、管理組合が競売請求した訴訟がありました。
裁判所は、この競売請求を認める判決を出しましたが、この判決を見た、被告(悪質な長期滞納者)は競売を逃れるために区分所有権の共有持分を第三者に売却しました。
それでは、この判決によりこの第三者に対しても競売請求はできるでしょうか。最高裁判所は競売請求ができないと判断しました(最高裁平成23年10月11日第3小法廷決定、最高裁HP)。訴訟の負担とマンション管理の実態から考えさせられる判例です。
近森土雄
法律の誤解?個人情報の開示請求
| 2012.02.26 日曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年11月号Vol.70」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №5」を加筆修正して、再掲したものです。
平成15年に、個人情報の保護に関する法律ができてから、個人情報という言葉は日常用語としてすっかり定着した感があります。しかし、法律家からすると誤解されて使われることが多い言葉です。
例えば、同法25条は、「個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法 により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。」としています。この規定を読むと、提供した個人情報の開示請求権が個人に認められてい ると誤解(?)する人は多いと思います。
しかし、否定した裁判があります(東京地裁平成19年6月27日判決)。この裁判は、受診した眼科医に対して患者が診療録(カルテ)の開示を求めたもので すが、裁判所は同法による開示義務は行政に対する公法上の義務であるが、私法上の義務ではないと判断して、裁判による開示請求を認めませんでした。
この裁判はそのまま確定したために、高等裁判所、最高裁判所の判断は出ていません。しかし、同法は個人の開示請求権を認めているとする立場からの有力な批判があります。
法律があっても、その解釈が確定していない身近な例を挙げてみました。なお、行政機関や独立行政法人(国立大学など)に対しては、別の法律があります(行 政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律)。そこでは、保有する個人情報の開示を請求する権利 が個人にあることが、【開示請求権】という標題の条文で明確に認められています。
同条文では、「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。」(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律12条1項)と明示しています。
近森土雄
法律相談のむずかしさ
| 2012.02.2 木曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年10月号Vol.69」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №4」を加筆修正して、再掲したものです。
弁護士が相談者から事実経過を聞いて、相談者の権利と義務について意見を述べるのが法律相談ですが、相談者にとって、適切に事実経過を整理し相談すること は意外と難しい。というのは、法律判断をするのに必要な事実が何かかが分らないのが一般的で、そのため伝えるべき事実も分らないからです。
テレビで、数人の弁護士が法律相談に回答をするが、弁護士によって意見が違ったのを、回答の正否ではなく、回答者の個性や人生観の問題として司会者が巧み に整理進行するのが人気の番組があります。これも、一方的な質問で、提供される事実関係が不十分なことが、結論が分れる主な原因です。
主な原因と言いましたが、相談者から事実関係が適切に伝えられても、その事実を証明できる証拠がない場合にも弁護士の意見が分れます。相談者本人も当事者 として証拠になりますが、裁判所はなかなか信用してくれません。できれば第三者の証人(目撃者など)、書類などの証拠がいります。証拠がそろえば、判決の 見込みについて弁護士の意見はより一致するはずです。
それでも、意見が違う場合があります。それは、適用する法律の理解に食い違いがある場合で、条文や判例の解釈、裁判実務の理解によって、裁判の見込みに差があります。
ご相談者ご本人があらかじめネットなどで法律を調べて、相談されることが最近は多くなりましたが、法律を誤解されていることが相談で分ることがめずらしくありません。
近森土雄
法律相談の効用
| 2012.01.19 木曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年9月号Vol.68」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №3」を加筆修正して、再掲したものです。
前回、民事裁判の件数を紹介して、その件数から訴訟になっても原告や被告が弁護士に依頼しないことが意外と多いことをお伝えました。そして、弁護士に相談してみればいい解決法が見つかるかもしれませんよ、というところで、話は終わりました。
それでは、どんな解決法があるかということですが、裁判になっているケースで一番に思い浮かぶのは「和解」です。これは、ほとんどの事件で可能性があります。
始めから裁判の勝ち負けが決まっている事件でも、「和解」をすることがありますし、そのことで原告と被告の双方が利益を受けられることも事実です。事件に よりますが、例えば金銭を請求する事件(家賃や貸金の返還など)でも、原告が被告に対して支払いを命じる勝訴判決を裁判所からもらっても、被告に支払い能 力がなければ、解決は長引くばかりで判決書は絵に描いた餅になってしまいます。そんなことなら、原告は一部でも確実に回収ができ、被告は債務から解放され る夢が持てる「和解」を選択することが賢明です。
どんな事件でもあきらめないで、弁護士に相談して、和解ができる可能性、和解する場合の内容(裁判所では和解条項、調停条項になります)を探ってみたらいかがでしょうか。
弁護士に和解条項案を見てもらうだけでも、有益な助言がえられると思います。
近森土雄
裁判所の利用と訴訟の割合
| 2011.10.31 月曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年8月号Vol.67」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №2」を加筆修正して、再掲したものです。
日本の裁判所に1年間にどのくらいの件数の事件が申立てられているか、ご存じですか。刑事事件や少年事件を除くと、その数は、320万件。そのうち、80万件が家事事件です。
これだけ紛争があるのかと驚かれるでしょうが、事件の当事者が本格的に白黒を争っている事件は、その10分の1弱、30万件くらいではないでしょうか。
本格的な裁判手続きである民事訴訟は、320万件のうち、地方裁判所23万件余り、簡易裁判所66万件弱です(裁判所データブック2010)。地方裁判所の民事訴訟で、原告・被告の双方に弁護士がつくのが28%、まったく弁護士がつかないのが25%。
これらは平成21年のデータですが、最近はテレビ宣伝でもおなじみの貸金業者に対する過払金の返還請求事件が地方裁判所(請求額が140万円を超える訴訟)の訴訟でも約半数を占めるといわれており、法廷風景につきものの証人尋問も減っています。
本格的に争う訴訟では、大方の人が弁護士を代理人に依頼するほうがいいと思われると思います。たしかに「勝つべき者を勝たす」ことが裁判の理想ですが、 裁判官は法律や訴訟手続に基づいて判決をせざるを得ないので、勝つべき事件ほど弁護士が必要になります。一方で、争いのないと思われる訴訟でも、弁護士に 相談して、適切な対処法を知れば紛争の解決が適切にできる場合も意外とあります。
訴訟になれば、ともかく、弁護士に相談することをお勧めします。
近森土雄
弁護士は身近になりましたか?
| 2011.10.26 水曜日 | 弁護士の眼(近森土雄) |
以下の記事は「MNO Office Letter 2011年7月号Vol.66」(発行人株式会社成岡マネジメントオフィス)に掲載された私の記事「弁護士の視点 №1」を加筆修正して、再掲したものです。
今から20年ほど前には、できれば、お世話になりたくないが、いざとなると必要。しかし、その時にすぐに相談できないのが弁護士。その要因は、弁護士の数の絶対的な不足、とされていました。
そこで、当時は年間500人程度だった司法試験合格者が徐々に増え、現在は2000人程度に増員されました。識者やマスコミからの批判や、経済界、各種 の団体からの政府への増員要望があり、弁護士会も増員に賛成。ところが、最近は、主として弁護士のなかから、この国には増員するほどの法的需要はなかった のではないかという疑問の声があがっています。
簡単に結論が出そうにない問題ですが、法曹人口(聞きなれない言葉と思いますが、法曹は弁護士、検察官、裁判官の三者を言います)を大幅増員するという政策によって、知り合いに弁護士がいる人が増え、その結果、弁護士が身近になったことは間違いないと思います。
それでは、皆様にとって、法律相談がしやすくなり、相談の機会が増えましたか?さらには、相談してみてよかったですか? と、質問を続けたいところです。
よかったというご回答をいただけなければ、そもそもの法的需要の予測を立てることができません。いいかえれば、弁護士を増員しても、いざという時にお役に立ったという利用者が増えていなければ、いくら弁護士が身近になっても増員した意味がなかったことになります。
これから何回かに分けて、弁護士が皆さんのお役に立てそうな場合をあげてみますので、ああ、こんなことで必要になるのかと思っていただければ幸いです。
近森土雄