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弁護士の眼

不服申立て

| 2012.07.31 火曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |

 現在ロンドンオリンピックの真っ最中です。日本選手を応援しながらテレビを見ていますが、ロンドンとは時差が8時間らしいので、ロンドンの夕方7時は日本では夜中の3時になり、なかなか最後まで見ることはできません。
 今日も、体操男子団体決勝を見ていて、最終種目が終了して4位になったところで力尽きて寝ました。ところが朝起きてテレビを見ると、抗議が認められて点数が訂正され、銀メダルになったと報道されていました。
 また、前日には柔道の旗判定が審判委員の異議によって変更されたことが大きな話題になっていました。
 考えてみますと、最近、一度審判が行ったジャッジが覆されるケースが増えたように思えます。もともとNFL(アメリカのプロアメフト)や大相撲などでは ビデオ判定が導入されていましたが、ここ10年のうちにテニスやプロ野球、ラグビー、フィギュアスケート、ボクシングなど様々な協議で導入されています。 サッカーではユーロ2012での誤審をきっかけにゴールの判断を機械で行うことが検討されたとのことです。

 裁判の世界では、三審制という原則があることは皆さんご存じだと思います。判決がおかしいと思う場合には2回まで上級審に不服申立てができ、判決が間違っていれば修正してもらえるという制度です。
 確かに形式的には同一事件で3回裁判が受けられるようにはなっているのですが、実質的にはほとんどの場合3回も裁判は受けられません。

 まず、上告審は憲法違反などの特別なケース以外は審理の対象としません。不服申立ての大多数である「事実認定の間違い」は審理対象としませんので、不服の内容を審理してもらう前に門前払いにされます。ですので、実質的審理をするのは2回だけといっていいです。

 次に裁判は大きく分けて民事事件と刑事事件とがありますが、刑事事件は1回しか実質的審理がないと言っても過言ではないと思います。
 刑事事件の控訴審では第一審の時点で提出できた証拠はもはや提出できません。不服申立の根拠となる資料であっても、第一審の時点で存在していた証拠は原則として提出できません。
 また、裁判官も第一審の判決を訂正する必要があるかどうかを判断基準とし、自分がどのくらいの刑罰が妥当と思うのかの観点から判断をしません。
 例えば懲役3年の判決が第一審で下されたとします。被告人が刑が重いとして控訴した場合、仮に控訴審の裁判官が「2年8月ぐらいが妥当かな」と思ったと しても、「3年はちょっと重いけど、重すぎるとはいえない」と判断すれば、控訴は棄却されます。2年8月との判決を下さないのです。

 これに対し、民事事件では控訴審で新しい証拠を出すことに原則として制限はありませんし、「1000万円支払え」との判決が第一審で下された場合に、「800万円が妥当」だと控訴審の裁判官と思えば「800万円支払え」と判決します。
 ですので、実質的にも2回審理をしてくれるといえます。

 このように、刑事事件の控訴審で判断が変わることはほとんどありませんが、民事事件ではしばしば見られます。このような観点から裁判の報道を見られてもおもしろいかもしれません。

  大和克裕


法曹人口を決めるのは誰か。

| 2012.03.22 木曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |

 最近、弁護士業界では、日弁連会長選挙の争点となったことや日弁連が3月に提言を出したことから、またもや司法試験合格者数が話題となっています。
 弁護士の間では年間1000人か1500人に制限せよという意見が多いようですが、弁護士以外の方からは、「適正な法曹人口は市場における需給関係に よって決まるから、何人でも合格させて競争させたらいい。予め合格者数を決めるべきではない。」という意見がけっこう強いです。

 確かに、司法試験が単なる資格試験であり、試験において発揮された能力の絶対値にて法曹資格が与えられるのであれば、合格者数を予め定めることは不合理です。
 市場における需給関係で法曹人口が決まるのであれば法曹人口の目標値を定めることは無意味です。
 そもそも競争原理で市場の需給関係が決まるのであれば、司法試験そのものが不要という結論になります。実際に規制改革会議では、ある委員からそのような発言がされていました。

 しかし、戦後60年以上にわたって連綿と、法務省は予め決められた司法試験合格者数に従って合格者を決定し、法曹人口の総量は決められてきました。また 司法制度改革にあたっても、司法制度改革審議会や閣議決定は法曹人口や司法試験合格者数について明確な目標値を定め、政府がこれらの数を決めるという姿勢 を崩していません。
 つまり、政府は、司法試験は単なる資格試験ではなく、法曹人口は競争原理で決まるわけではないことを明言しているのです。

 これは、法曹人口や司法試験合格者数の決定は、弁護士だけでなく裁判官や検察官も含め司法権という国家権力を担う者について、どの程度の能力を持った人材をどのくらいの人数携わらせるかということであり、重要な国家政策であるという認識を政府がもっているからです。
 したがって、法曹人口や司法試験合格者数というものは、政府の方針によって政策的に決まるものであり、市場における需給関係や試験で発揮された能力の絶対値によって決まるものではありません。

 これに対して、法曹三者のうち、裁判という公的業務のみを行う裁判官及び検察官と、依頼者の私的利益の保護を図る弁護士を分離して考えるべきだという方がいます。
 しかし、このような主張をされる方は、どうも司法権の行使=裁判権の行使という捉え方しかしていないようです。
 裁判はあくまでも司法権を行使して法的紛争を解決するための一手段にすぎません。手術が治療の一手段にすぎないのと同様です。
 弁護士が法律相談でアドバイスをして紛争を解決すること、さらには契約書等をチェックして紛争を未然に防ぐことも、法的紛争の解決という司法権の行使の一手段なのです。

大和克裕


維新版・船中八策の真の危うさ

| 2012.02.20 月曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |

まず、以下の意見は大和個人の意見であって、当事務所及び当事務所の他の弁護士の意見ではないことを予めお断りします。

 

 橋下氏が率いる大阪維新の会の次期衆院選公約として骨子が発表された「維新版・船中八策」ですが、その過激な内容が話題となっています。首相公選制、参 議院廃止、国民総背番号制など、一昔前の参院選比例代表制で泡沫政党が主張していた政策とほぼ同じです。言い出したのが大阪維新の会でなければマスコミも 放置していたのではないでしょうか。
 この維新版・船中八策に対するマスコミや政治家、有識者のコメントを見ますと、橋下氏に対する個人攻撃から実現可能性に対する論評まで、過激さに比例するかのように百論続出です。

 しかし、私はこの有識者のコメントにこそ、維新版・船中八策の真の危うさが潜んでいるのではないかと思うのです。

 これらのコメントの論調を見ますと、「首相公選制や参議院廃止は憲法改正をしなければできないんだから、実現は困難だ」という点では一致しているようで す。そのため、「また橋下がマスコミに取り上げてもらおうと思って、現実性のない花火を打ち上げている」と思っている節がありありと見えます。
 その前提には「憲法改正なんて不可能だ」という戦後60年以上積み上げられた経験則がありますが、私にはどうもその経験則に捕らわれすぎているように思えます。

 先日、大阪の選挙区で次期衆院選で維新の会と公明党が選挙協力する旨の報道がなされました。
 公明党に限らずどの政党でも、可能ならば首相を輩出し内閣を組織したいと思っているはずです。しかし、今の党勢や選挙制度で大政党以外の政党から首相を出すのはほぼ不可能といってよいのではないでしょうか?
 でも首相公選制が導入されるとぐっと公明党などの政党から首相を出せる可能性が高まります。他の党より人気のある候補さえ出せれば首相選挙に勝てるので す。熱狂的な人気を誇る橋下氏と組めればより可能性は高まるでしょう。橋下氏が深謀遠慮によって自身が首相に立候補しない可能性も十分にありますから。
 そうすると公明党を含め、大阪維新の会に群がる政党が首相公選制に賛成し、賛成勢力が両院で3分の2以上を取る可能性がないとは言えません。

 絵空事かもしれません。しかし、憲法改正なんて無理だという先入観で楽観視していると、気づいた時には手遅れとなってしまっている。

 それが今回の維新版・船中八策に潜む真の危うさではないかと私は思います。

 大和克裕


自転車のマナー

| 2011.10.19 水曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |

自転車のマナーについては、最近ピストと呼ばれる自転車のブレーキ不備が問題となってマスコミ等でも話題になっています。今日も警視庁が自転車の歩道通行禁止を徹底するとのニュースが流れていました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111019-00000015-mai-soci

 自転車のマナーについては1年半ほど前に大阪弁護士会のホームページで書きました。http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/39/entry/268
 若干修正しますと、自転車が横断歩道を進行してはいけないのはそのとおりなのですが、いわゆる歩行者信号がある場合には横断歩道は進行して良いことになっています。

 このような自転車の交通マナーの悪さは、自転車と歩行者は同じだと勘違いしていることから生じるのだと思います。
 確かに対自動車の事故では両者とも弱者になっていますが、自転車対歩行者で同じと考えるのは大間違いです。
 昨年3月に東京や大阪などの交通事故専門部の裁判官が話し合いをし、歩道での自転車と歩行者の事故は原則として100%自転車に過失があるという結論になりました。
 つまり、見通しの良い歩道で自転車と歩行者が両方とも避けずに正面衝突した場合、原則として自転車が100%悪いということになります。
「歩行者から自転車が見えていたじゃないか」とか「歩行者も避けれたはずだ」という主張は一切認められません。「歩行者に避ける義務はない」「自転車が避けるか止まれば良かった」「自転車が歩道を走らなければ良かった」で一蹴されてしまいます。

 相変わらず、ベルをうるさく鳴らして歩行者をよけさせて、かなりの速さで走っている自転車を見かけますが、このようなことを全く分かっていないのでしょう。いつ加害者になってすべての責任を負わねばならなくなってもおかしくないのです。
 自転車が歩道を走ることはバイクが歩道を走るのと同じだという認識をぜひとも持って欲しいと思います。

 大和克裕 


2010年3000人は本当にあり得ないのか?

| 2010.08.19 木曜日 | 弁護士の眼(大和克裕) |

以下の記事は平成22年6月13日に大阪弁護士会HPの「弁護士の放課後」に掲載された私の記事http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/39/entry/330を、大阪弁護士会広報室の了解を得て再掲したものです。

大和克裕

 さて、一般の方にはタイトルを見ても何のことかわからないだろうと思いますが、司法試験合格者数のことです。
 2001年6月の司法制度改革審議会意見書や2002年3月の政府閣議決定が、司法試験合格者数を3000人程度とすることを目指すとした目標年度が今年なのです。
 しかし、弁護士業界では2010年3000人はもうあり得ないという見方が大勢を占めています。今年の日弁連会長選挙でも、両候補者の政策は2010年3000人があり得ないことを前提にしたものでした。
 その根拠は2009年の新試験合格者が司法試験委員会が目安とした2500~2900人を大きく下回る2043人であったことにあります。
 でも、本当に2010年の合格者が3000人となることはないのでしょうか?

  2010年3000人の最大の根拠は上記閣議決定です。閣議決定を変更するためには改めて閣議決定をしなければならないのですが、2002年3月の閣議決定は未だに変更されておらず現在も有効です。
 司法試験の合格者数を決定するのは司法試験委員会ですが、実際には法務省の事務方が複数の案を作り、そのうちのどれにするかを司法試験委員会で決議してもらうそうです。ですから、合格者数の原案を作成するのは検事とはいえ法務省のお役人です。
 お役人が「上の決めたこと」を杓子定規に守る傾向が強いことは皆さんもご承知のことでしょう。政府閣議決定は最も重要な「上の決めたこと」です。

 司法修習生を受け入れる側の最高裁判所はどうでしょうか。
 最高裁のHPに最高裁の予算が公表されています。よくわかりませんが、概算要求どおりの予算となったようです。これを見ますと、平成22年度の最高裁判所の予算概算要求では「司法修習生旅費 」の項目に「(1)招集帰任旅費(ア)新1年次 3000人」として計上されています。
 また「修習資金貸与金」として26億8500万円が計上されています。どういう計算でこの金額になったのかはわかりませんが、平成22年11月~23年3月までの5ヶ月分で、一人平均月25万5000円(配偶者や扶養親族が居るか、家賃を払っている場合の貸与額です)の支給として計算すると約2100人分となります。全員が貸与を受けるわけではないでしょうから、貸与率7割と考えるとこれも3000人を前提とした数字と言えそうです。
 予算ですから全部使う必要はないのですが、最高裁は3000人となる可能性を想定して予算要求し、財務省=政府がそれを認めたことは確かです。

 昨年の合格者数抑制は、合格者の質の維持を法務省が図った結果だというのが通説です。しかし、よく考えると下位合格者の質を維持することによって法務省が得られる利益はあまりありません。
 裁判官や検察官の新規採用数がそれぞれ100名程度でしかなく、そのため成績が良くなければ採用されないことは、今や業界の常識です。ぎりぎり合格した者が裁判官や検察官に採用されることはほとんどないといってよいでしょう。
 つまり、最高裁や法務省にとって、採用対象である成績上位者の質さえ維持されていれば、合格者が3000人になって下位合格者の質が下がろうが、自分たちには何も影響がないといえます。
 給費制で合格者を増やせば人件費が膨れあがることが合格者数が伸び悩んだ理由ともされていましたが、貸与制になればこの点はクリアされます(注1)。

 昨年3月に日弁連は「当面の法曹人口のあり方に関する提言」で数年間は現状の合格者数を目安とすることを提言し、2009年の合格者数はこの提言に合致するものでした。これはひねくれた見方をすれば、会長選挙を控えた日弁連執行部≒主流派に法務省が恩を売ったと見ることもできます。そう考えると、今度は「恩を返してね=閣議決定を守らせてね」となる可能性も、全くないとは言い切れないでしょう。
 そもそも、「法務省が2年続けて日弁連提言に沿った合格者にする=法務省は日弁連の言うがままだ」と見られる可能性がある事を、プライドの高い法務省の人たちは嫌がりはしないでしょうか?

 先日、新司法試験短答式試験の発表がありましたが、合格者は5773人でした。昨年から718人増えています。昨年は短答式試験合格者は395人ふえたにもかかわらず最終合格者は18人減ったので一概には言えませんが、合格者数増加の兆しと見ることもできます。

 正直なところ、私も3000人にはならないだろうと思っていて、2200~2300人と予想していますが、感覚的なもので根拠は全くありません。
 上に挙げたことを考えれば、2500人、場合によっては2800人にして「3000人程度でしょ」と開き直られる可能性は十分にあると見ています。

 これに対し日弁連の動きは鈍いです。理事会報告を見ると、4月の理事会で法曹人口問題検討会議を廃止して法曹人口問題を中心課題とする組織を作ることは決まったようですが、その後の動きが見えてきません(注2)。
 私は2年前に日弁連の法曹人口問題検討ワーキンググループの委員となり、2008年7月18日の日弁連「法曹人口問題に関する緊急提言」の作成に関わりましたが、その時には2008年の司法試験合格者数に影響を与えるためには7月中に何らかのアクションを起こさなければ間に合わないとの認識から、4月早々から活動を始め、7月上旬に提言案をまとめるまでに7回の会合を開いていました。
 今の時期に一から組織を立ち上げて、今年度の合格者数に影響を与える活動をするのは無理でしょう。
 日弁連が何もしなければ、法務省は自分のやりたいようにするでしょう。

 最終合格者発表は9月9日重陽の節句です。
私の懸念が杞憂に終わればいいと思っていますが、さて、どうなることやら。

(注1)
 今までの司法修習生は、みなし公務員として修習専念義務を課せられるかわりに年間300万円くらいの給料をもらっていました(給費制)。
 修習生の人数が増えたこともあり、今年の11月採用の司法修習生から修習専念義務はそのままで給費制を廃止し、その代わりに希望者には無利子で生活費を貸し付けし、修習終了後5年後から10年間で返済することとなっています(貸与制)。

(注2) 
その後6月18日の理事会で「法曹人口政策会議」が日弁連に設置されましたが、第1回の全体会議は8月21日だそうです。いずれにせよ、今年の合格者に影響を与えることは無理でしょう。


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